たとえば、休職中の社員の復職の面談を、担当医の訪問日まで待てずにスポットで頼んだ日。診断書とこれまでの経過は資料で先に渡してあり、医師は目を通して面談に入りました。それでも途中で「前回はなぜ残業を制限したのですか」と聞かれました。
急ぎの面談をスポットに回したのは、社員を待たせない判断です。ただ、情報は引き継げても、判断の文脈までは引き継ぎにくいものです。復職のように続く相談では、この差が次の判断に影響します。
このページでは、この1件を追いながら、スポット産業医でも対応しやすい相談と、続けて見てもらう相談の分け方をまとめます。
このページの要点
- スポット産業医には資料で情報を引き継げる。引き継ぎにくいのは判断の文脈
- 1回で完結する相談はスポット産業医でも対応しやすい。復職のように続く相談は分けておく
- 続けて見る相談は、担当医に訪問日以外でも聞ける決まりを作っておく
復職の面談をスポット産業医に頼んでも、資料で渡せるのは情報まで
スポット産業医には、診断書や経過の資料を面談の前に渡せます。限られた情報の中で、医学的な判断や就業上の配慮を提案することもできます。
資料で渡せなかったのは、判断の理由
30分の面談の途中で聞かれたのは、資料に書いていないことでした。前回の担当医がなぜ残業を制限したのか。その理由を知る担当医は、その場にいません。
人事が覚えている範囲で話すしかありませんでした。
資料で引き継げること、引き継ぎにくいこと
右の列は、診断書や面談記録を読むだけでは把握しきれない場合があります。
| 資料で引き継げること | 資料だけでは引き継ぎにくいこと |
|---|---|
| 診断書の内容 | なぜ前回、残業制限を設けたのか |
| 面談対象者の情報 | なぜ元の部署ではなく配置転換を検討したのか |
| これまでの経過 | 会社としてどこまで就業上の配慮ができるのか |
| 前回の面談の記録 | 次回、何を確認できれば制限の緩和を検討できるのか |
1か月後も、また別の医師に
復職して1か月後、勤務時間を延ばしてよいかの面談も、訪問日を待てずにスポットで頼みました。来たのは、前回とは別の医師です。
医師は目の前の状態から配慮を提案してくれました。ただ、前回の判断と今回をつなげる説明は、人事に任されたままでした。
急ぎをスポット産業医に回したのは、社員を待たせたくなかったから
訪問日まで待たずにスポット産業医に頼んだのは、社員を待たせない判断です。月1回の訪問なら、待てば復職が1か月延びることもあります。
担当医に「この程度で」と聞けなかった
理由はもう一つありました。担当医に訪問日以外で連絡してよいのか、会社の中で決まっていなかったのです。
「この程度のことで先生の時間を取ってよいのか」と迷った末に、スポットに回していました。迷ううちに急ぎになり、急ぎになったからスポットを使う、という順番です。
文脈が途切れるのは、医師の能力の差ではない
スポット産業医は、緊急の面談や単発の相談を受けてくれる便利な仕組みです。文脈が途切れるのは、医師個人の能力差というより、サービスの構造の違いです。
1回で完結する相談はスポット産業医でも対応しやすい、続けて見る相談は分けておく
どの相談をスポット産業医に回すかは、会社が決めてかまいません。分け目は、その相談が1回で完結するかどうかです。
スポット産業医に回す相談、担当医に続けて見てもらう相談
1回で完結するかどうかで分けます。
| スポット産業医でも対応しやすい相談 | 担当医に続けて見てもらう相談 |
|---|---|
| 健康診断の結果についての意見聴取 | 休職からの復職と、復職後の見直し |
| 1回で終わる長時間労働の面接指導 | 不調が続いている社員の相談 |
| 1回で終わるストレスチェック後の面接指導 | 残業の制限や時短など、配慮の見直し |
| 訪問日に来られない社員の、一度きりの面談 | 前回の判断とのつながりが要る相談 |
1回で完結する相談は、経緯が少なくても進む
健康診断の意見聴取のように、手元の結果を見て意見を出す相談は、会社の経緯をたくさん知らなくても進みます。緊急の面談や1回で完結する相談なら、スポット産業医の速さがそのまま役に立ちます。
続く相談は、前回の続きから話したい
復職や不調の相談は、前回の判断のうえに次の判断を重ねていきます。産業医の側から言えば、「前回こういう話がありましたよね」から始められるかどうかで、面談の中身が変わります。
普段から同じ会社を見ている産業医の方が、過去の判断と今の状況をつなげて考えやすくなります。
復職は1回で終わらない:スポット産業医に頼むたびに途切れるもの
厚生労働省の手引きは、職場復帰の支援を、休業の始まりから復帰後のフォローアップまでの5つのステップで示しています。1回の面談で終わる流れではありません。
職場復帰の5つのステップ
厚生労働省の手引きの流れに、この1件を当てはめました。
| 手引きのステップ | この1件で起きること |
|---|---|
| 1 休業の始まりと休業中のケア | 休職期間や手当を本人に伝える |
| 2 主治医による復職可能の判断 | 「復職可」の診断書が届く |
| 3 復職の可否の判断と支援プランの作成 | 産業医の意見を聴いて、戻り方を決める |
| 4 最終的な復職の決定 | 復帰の日と勤務の条件を会社が決める |
| 5 復帰後のフォローアップ | 勤務時間を延ばすか、配慮を外すかを見直す |
この表の根拠
- 5つのステップ:病気休業開始及び休業中のケア/主治医による職場復帰可能の判断/職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成/最終的な職場復帰の決定/職場復帰後のフォローアップ
- 第5ステップ:職場復帰後は、管理監督者による観察と支援のほか、事業場内産業保健スタッフ等によるフォローアップを実施し、適宜、職場復帰支援プランの評価や見直しを行います(厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」)
途切れるのは、判断の文脈
5つめのステップでは、復帰後に支援プランを評価し、見直します。見直すには、最初に何を決めたかを知っている医師が要ります。
丁寧に引き継げば共有できる部分もあります。ただ、スポット産業医に頼むたびに医師が替わると、前の判断の理由を直接知る医師はいなくなります。その穴を埋めるのが、説明し直す人事でした。
スポット産業医に回す前に、担当医へ訪問日以外で聞ける決まりを作る
担当医に訪問日以外で聞ける決まりがあれば、続く相談をスポット産業医に回さずに済みます。決めることは、多くありません。
担当医に訪問日以外で聞くために決めること
契約の中で決めてよい項目です。
| 決めておくこと | 決め方の例 |
|---|---|
| 連絡の方法 | メール・Chatwork・Slackなど、会社がふだん使っているもの |
| 返事の目安 | 会社と担当医で決める(たとえば、翌営業日まで) |
| 急ぎの面談 | 訪問日を待たずに、担当医がオンラインで入れるか |
| 聞いてよい範囲 | 「この程度で」と迷う相談も含めてよいか |
「この程度で」を聞ける形にする
聞いてよい範囲を先に決めておくと、人事は迷わずに済みます。「この程度で」の相談こそ、早く聞けば1回で終わることがあります。
サンダーメディコでは、メール・Chatwork・Slackなど、各社の連絡手段に合わせて、定期訪問日を待たずに普段の担当産業医へ直接ご相談いただけるようにしています。急ぎの相談も、できる限り会社の事情を知る同じ医師が続けて対応します。
それでもスポット産業医に頼むときは、判断の理由まで1枚に書いて渡す
担当医が入れない急ぎのときは、スポット産業医に1枚の紙を先に渡します。資料に載りにくい前回の判断の理由も、書いておけば伝わりやすくなります。
スポット産業医に先に渡す1枚
同じ1枚を、担当医にも残します。
| 1枚に書くこと | 中身 |
|---|---|
| これまでの経緯 | 休職に入った日と理由、休職中の様子 |
| 会社の決まり | 就業規則の休職期間、時短勤務や配置換えができるか |
| 前回の意見 | 担当医の判断と理由、見直しの時期 |
| 今回決めたいこと | 復職の可否、勤務時間、配慮の続け方 |
同じ1枚を、担当医にも残す
スポット産業医の意見をもらったら、その1枚に書き足して、担当医にも渡します。次の訪問日に、担当医が前回の続きから話せます。
担当医に聞けない契約なら、スポット産業医を増やす前に見直してよい
続く相談のたびにスポット産業医が要るなら、今の契約の形を見直してよい合図です。担当医に訪問日以外で聞けない形のままだと、説明し直しは続きます。
今の契約のままでも、相談できる
サンダーメディコには、今の産業医との契約が続いたままでもご相談いただけます。相談は30分・オンラインで、担当予定の産業医本人が伺います。
この半年でスポットに回した相談を並べると、担当医に続けて見てもらうはずだった相談が混ざっていることがあります。どれを担当医に戻すかを、一緒に分けます。
よくある質問:スポット産業医を使うとき
- スポット産業医とは何ですか?
- 1回ごとに頼む契約の産業医です。健康診断の意見聴取のように1回で完結する相談なら、急ぎでも受けてもらいやすい仕組みです。復職のように続く相談では、前回の判断の文脈までは引き継ぎにくくなります。
- 嘱託の産業医がいても、スポット産業医に頼んでよいですか?
- 頼んでかまいません。ただ、復職のように続く相談は、担当医の判断とつながらなくなります。スポット産業医の意見は、担当医にも渡してください。
- スポット産業医と担当医の意見が違ったら、どうすればよいですか?
- どちらかに従うのではなく、両方の理由を聞いて会社が決めます。違う点を担当医に確かめると、次の判断につながります。
- 従業員50人未満の会社でも、医師に相談できますか?
- 地域産業保健センターでは、従業員50人未満の事業場向けに、医師による健康相談などを無料で受けられます。急ぎの対応ができるかは、各センターにご確認ください。
- 担当医に訪問日以外で連絡するのは、迷惑ではありませんか?
- 方法と時間帯が決まっていれば、迷惑ではありません。「この程度で」の相談を聞ける形が、続く相談を途切れさせません。
- 人事が1人だけの会社でも、相談してよいですか?
- 相談してください。人事が1人の会社ほど、説明し直す手間も一人で抱えています。気になっていることを、そのままお聞かせください。
急ぎのときほど、いつもの産業医に:スポット産業医は単発の相談で
急ぎをスポット産業医に回したのは、社員を待たせないためでした。1回で完結する相談はスポットに、続く相談は会社の事情を知っている担当医に、と分けておけば、判断の文脈は途切れにくくなります。
急ぎのときほど、いつもの産業医に。どう分ければよいか迷うときは、スポットに回した相談をそのままお聞かせください。


















