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産業医に相談しにくいのは
社員だけではない|
人事が求めてよいこと

産業医が、机をはさんで人事担当者の話を聞いているイラスト
産業医が、机をはさんで人事担当者の話を聞いているイラスト
産業医が、机をはさんで人事担当者の話を聞いているイラスト
杉山 大介

執筆:杉山 大介

株式会社サンダーメディコ 代表・現役の嘱託産業医

noteで産業保健の実務知見を発信しています

「先生に聞く前に、少し身構えてしまうんです」。他の産業医から切り替えて来られた企業の人事担当の方から、こう伺いました。医師の判断を軽く扱えない立場なら、身構えるのは当然です。

人事が産業医に相談しにくくて言えずにいたことは、ほとんどが医学的な知識だけでは解決しない問題です。時間を守ってほしい、聞き返させてほしい、次に何をすればよいか教えてほしい。相手が医師でも、言ってよいことです。

このページでは、切り替えて来られた企業が前の産業医に言えずにいたことと、次の訪問日に言ってよい一言をまとめます。

このページの要点

  • 産業医に相談しにくくて言えずにいたことの多くは、医学的な知識だけでは解決しない仕事の進め方の話
  • 社員が産業医に相談しにくいのも、同じ先生の前で起きていることがある
  • 次の訪問日に産業医へ言う一言を決めておけば、相談は1か月待たずに済む

人事が産業医に相談しにくいとき、最初に出る言葉は「身構えてしまう」

切り替えのご相談で、産業医に相談しにくいと感じていた人事の方から最初に出てきたのは、「身構えてしまう」という言葉でした。聞きたいのは難しいことではなく、ちょっとしたことです。

聞けずにいるのは、ちょっとしたこと

休職中の社員に、いま会社から連絡してよいか。残業の制限は、いつまで続けるのか。先月の面談のあと、会社は何をすればよかったのか。

いずれも、産業医に早めに相談してよい内容です。それでも、訪問日の短い時間に切り出せないまま、産業医は帰っていきます。

産業医の側から言えば、ちょっとしたことほど早く聞いてほしい話です。小さな疑問のうちに産業医が答えておけば、休職や復職の判断がこじれる前に手を打てます。

聞けない理由は、相手が医師だから

切り替えて来られた企業の人事担当の方は、「ちょっとしたことを相談しづらい」「産業医の意見に疑問があっても聞き返しづらい」と話していました。

「先生がそう言うなら」と受け止めるしかない産業医には、「それはなぜですか」の一言が出ません。訪問の日は限られ、時間も短く、ちょっとしたことを聞き返す場は、どこにも決まっていません。

「相談しやすくしてほしい」は、もっと言えない

中でも重いのは、「もう少し相談しやすい雰囲気にしてほしい」という一言です。言えば産業医の話し方に触れることになるので、企業の側からはまず口に出せません。

こうして、産業医に相談しにくいまま、毎月の訪問日が過ぎていきます。

切り替えた企業が、産業医に相談しにくいまま言えずにいたこと

他の産業医からの切り替えでサンダーメディコにご相談いただいた企業から、前の産業医に言えずにいたことを伺いました。どの企業も、理由は同じで「相手が医師なので、企業から直接は言いにくい」でした。

訪問の時間が、予定どおりにならない

ある企業では、産業医の訪問時間が予定どおりになりませんでした。衛生委員会や面談の調整に、そのたびに支障が出ていたそうです。

担当の方の言葉は「先生の予定が読めず、社内の調整がしづらい」。それでも、時間を守ってほしいとは言えませんでした。

産業医の側から言えば、訪問の時間を守るのは医学以前の約束です。産業医が遅れれば、会社の衛生委員会も、社員の面談の予約も、まとめて後ろにずれます。

話し方が強くて、意見を聞き返せない

別の企業では、産業医の話し方が強く、人事担当の方が産業医に相談するたびに身構えていました。産業医の意見に疑問があっても、聞き返せないまま進めていたそうです。

「もう少し相談しやすい雰囲気にしてほしい」とも、最後まで産業医に伝えられませんでした。

人事に聞き返されない産業医は、会社の事情を知らないまま意見を出し続けることになります。聞き返しやすく話すのは、産業医にとっても仕事の一部です。

訪問の日のふるまいが、会社の感覚と合わない

産業医の訪問の日のふるまいが、会社の考えるビジネスマナーと合わないと感じていた企業もありました。社員の前に出る人なので、会社としては気になります。

ただ、医学とは関係のないことほど、医師には言いにくいものです。

産業医は、社員にとっては会社が呼んだ人に見えます。訪問の日のふるまいは、会社と産業医の両方の印象として社員に残ります。

聞いても、次に何をすればよいかが返ってこない

質問しても具体的な対応方針が示されない企業もありました。「こちらも産業保健について詳しいわけではないので、先生に聞いても分からないとなると、どう進めればよいか分からない」というお話です。

産業医から次の一手が返らないと、休職や復職の場面で会社が止まります。

産業医の仕事として見ても、意見を出して終わりでは、会社は動けません。次に会社が何をすればよいかまで示して、ようやく産業医の意見が使える形になります。

4つとも、医学的な知識だけでは解決しない

並べてみると、前の産業医に言えずにいた4つは、どれも医学的な知識だけでは解決しません。時間を守る、聞き返せるように話す、会社の場にふさわしくふるまう、次に会社が何をすればよいかを示す。

産業医の側から言えば、どれも産業医の仕事の基本です。会社は産業医と契約している側なので、伝えてかまいません。足りなかったのは、それを伝える場です。

社員が産業医に相談しにくいのも、同じ先生の前で起きている

社員に「産業医に相談してみて」と勧めながら、人事自身も同じ産業医に聞けずにいることがあります。産業医の前で社員が黙る理由と人事が黙る理由は、同じところにあります。

「産業医に相談してみて」と勧める側も、聞けずにいる

不調が気になる社員に、人事は「一度、産業医に相談してみて」と勧めます。その同じ産業医に、人事自身はちょっとしたことも聞けずにいます。

勧めながら、どこかで後ろめたさが残ります。自分が聞けない産業医に、社員なら話せるとは思えないからです。

社員の「話しても意味ない」に、心の中でうなずいてしまう

社員から「産業医面談は意味がない」と言われたとき、言い返す言葉が出てこないことがあります。人事も、産業医に聞いて次の一手が返ってこないことを知っているからです。

公開されている相談の中にも、仕事量が多くて体調を崩していると産業医に伝えたのに、何も変わらなかったという投稿がありました。社員から見た産業医面談は、話して終わりの時間です。

社員が黙る理由と、人事が黙る理由は同じ

社員が産業医に相談しにくい理由には、会社に知られる不安もよく挙がります。ただ、その奥に、人事と同じ「先生に言っても、会社は何も変わらない」という感覚が重なっていることがあります。

人事が「聞いても次の手が返ってこない」と感じている産業医の前では、社員も同じ思いをしています。

人事の一言が、社員の分まで動かす

先に動かすのは、社員ではなく、人事が産業医に言う一言です。人事が産業医から「会社が次にすること」を1行もらえれば、社員に「あなたの話で、会社はこれを変えた」と返せます。

返す1行

社員に返す1行の例

産業医の意見をもとに会社が決めたことを、話してくれた社員に返します。

社員が面談で話したこと社員に返す1行(たとえば)
仕事量が多くて、夜眠れない来月から担当を1件減らし、2か月後に産業医と見直します
上司には相談しにくい月に1回、上司とは別に人事が話を聞く時間を取ります
残業の制限がいつまで続くか分からない次の訪問日に産業医が見直し、結果を書面でお伝えします

そこで初めて、社員にとって産業医面談に意味が生まれます。

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月1回の訪問では、産業医に相談しにくいまま待つほど復職判断に必要な確認が遅れる

産業医の職場巡視は原則として毎月1回で、一定の条件を満たせば2か月に1回にもできます。訪問が月1回の契約なら、今日聞けなかった一言は、次の訪問日まで1か月待つことになります。

たとえば、復職判断に必要な確認が1か月ずつ延びる

休職中の社員から「来月から戻りたい」と連絡があったとします。主治医の診断書はそろっていても、会社として産業医に確かめたいことを聞けずにいると、復職判断に必要な確認は次の訪問日に持ち越されます。

その訪問日にも産業医に聞けなければ、さらに1か月。社員は待たされ、職場は人が足りないまま回し続けます。

聞けずにいる一言ごとに、1か月止まること

休職や復職だけではありません。産業医に聞けずにいる一言の数だけ、会社の判断が次の訪問日まで持ち越されます。

止まること

聞けずにいる一言と、次の訪問日まで止まること

訪問が月1回の契約なら、どれも1か月ずつ持ち越されます。

聞けずにいる一言次の訪問日まで止まること
休職中の社員に、いま会社から連絡してよいか休職期間や手当の案内
「復職可」の診断書が出たが、戻してよいか復職の判断と、職場の仕事の割り振り
健康診断で所見がある社員を、今までどおり働かせてよいか残業を減らすか、配置を変えるかの判断
先月の面談のあと、会社は何をすればよいか面談で決めた配慮の始まり
この表の根拠
  • 職場巡視:産業医は少なくとも毎月1回、作業場等を巡視する。事業者から決められた情報を毎月受け、事業者の同意があるときは2か月に1回(労働安全衛生規則第15条)
  • 健康診断のあと:異常の所見があった社員について、事業者は医師の意見を聴かなければならない(労働安全衛生法第66条の4)

その間も、社員は今までどおり働き続けます。

待つあいだに、社員の状態は変わる

産業医の次の訪問日までの1か月のあいだに、社員の体調も気持ちも変わります。待たされた社員が「会社は戻ってほしくないのか」と受け取ることもあります。

早めに聞けたはずの一言が、1か月の空白になります。産業医に相談しにくい状態は、人事一人の気まずさでは終わりません。社員の復職と、職場の人手に響きます。

次の訪問日に、相談しにくい産業医へ言ってよい一言

次の訪問日に産業医へ言う一言を、先に決めておいてください。産業医の側から言えば、どれも言われて困る一言ではありません。

時間が読めないなら

「当日の段取りと時間を、前の日までにいただけますか」。産業医から段取りが前の日に届けば、会社は衛生委員会の部屋も社員の予定も押さえられます。

産業医も、面談の準備をしてから来られます。困る産業医はいません。

意見の理由が分からないなら

「社員と上司に説明したいので、この判断の理由を教えていただけますか」。問いただすのではなく、説明に使いたいと伝えれば、産業医は答えるだけで済みます。

話し方が強い産業医への聞き返し方は、お悩み「産業医が高圧的で意見を聞き返せない」で場面ごとに書いています。

訪問の日のふるまいが気になるなら

「来客の方にもお願いしている社内の決まりがあるので、お伝えしてもよいですか」。産業医個人を責めるのではなく、会社の決まりとして渡します。

社員は、面談の前に訪問の日の産業医を見ています。そこで信頼できないと思われた産業医に、社員は相談しません。

次に何をすればよいか分からないなら

「次の訪問日までに、会社がすることを1行でいただけますか」。産業医の口頭の説明だけだと、1か月後には解釈がずれます。1行あるだけで、人事は止まらずに済みます。

次の訪問日は「前回の1行」から始まるので、産業医も同じ説明を繰り返さずに済みます。

訪問日まで待てないことがあるなら

「訪問日以外に連絡するときの方法と時間帯を、決めておきたいです」。休職や復職、メンタル不調は、産業医の訪問日に合わせて起きるわけではありません。決まっていなければ、契約の中で決めてよい項目です。

決めておけば、休職の連絡が訪問日の翌日に来ても、1か月待たずに産業医に届きます。

率直に伝えても変わらないなら、見直す理由になる

一言を伝えて答えが返ってくるなら、産業医に相談しにくい状態は、その日から変わります。率直に伝えても改善が難しい場合は、産業医との関係を見直す理由になります。

産業医の見直しを上司に相談したとき「気のせいじゃないの」で終わらないよう、伝えた日と返ってきた答えだけは短く残しておきます。印象ではなく出来事で話せます。

それでも相談しにくい産業医なら、替える前に相談してよい

一言を伝えても変わらないなら、産業医を見直してよい合図です。ただ、すぐに産業医を替えると決める必要はありません。

今の契約のままでも、相談できる

サンダーメディコには、今の産業医との契約が続いたままでもご相談いただけます。相談は30分・オンラインで、担当予定の産業医本人が伺います。

最初に伺うのは、前の産業医に言えずにいたことです。時間か、話し方か、ふるまいか、次の一手か。それが分かれば、次の産業医に何を確かめればよいかも決まります。

今の産業医との契約をどうするかは、そのあとで決めてかまいません。

訪問日を待たずに相談できる

サンダーメディコの産業医は、訪問日以外にもオンラインで相談や面談を受けています。オンライン面談は平日20時まで(事前予約制)。巡視・衛生委員会・面談の段取りは、訪問の前にお送りしています。言えずにいた4つのうち2つは、契約の時点でなくしておけます。

次の産業医には、言えずにいたことを先に聞く

産業医の経歴や専門は、紹介の資料に並んでいます。並んでいないのは、前の産業医に言えずにいたことへの答えです。

確かめること

次の産業医と、契約の前に確かめること

経歴の資料には載っていないことです。

言えずにいたこと次の産業医と、契約の前に確かめること
訪問の時間が読めない巡視・衛生委員会・面談の段取りと時間を、訪問の前に送ってもらえるか
訪問日まで待てない訪問日以外に、どの方法と時間帯で連絡がつくか
次の一手が返ってこない意見書に、会社が次にすることまで書いてもらえるか
話し方やふるまいが合わない契約の書面では決めにくいので、相談の場で担当予定の産業医本人と話して確かめる

前の産業医に相談しにくかった理由が、そのまま次の産業医への質問になります。経歴の立派な産業医でも、ここに答えられなければ、同じことが起きます。

判断で終わらせず、次に会社がすることまで伝える

産業医の意見を伝えて終わりにせず、会社が次に何をするかを決められる材料までお伝えします。人事の方が産業保健に詳しくなくても、次の訪問日まで止まらずに済みます。

替えることになったら、今の契約の解約時期に合わせて、引き継ぎの段取りを一緒に組みます。手順と届け出は、コラム「産業医との契約」にあります。

よくある質問:産業医に相談しにくいとき

産業医に意見の理由を聞くのは、失礼ではありませんか?
失礼ではありません。産業医の意見で動くのは会社なので、理由を確かめるのは人事の仕事です。理由を聞かないまま動くほうが、社員にも上司にも説明できずに困ります。
社員から「産業医に相談しにくい」と言われたら、会社は何をすればよいですか?
会社に知られる不安の奥に、「産業医に話しても会社は何も変わらなかった」という経験が重なっていることがあります。人事が産業医から「会社が次にすること」をもらって社員に返せば、社員の相談しにくさも動き始めます。
社員が「産業医面談は意味がない」と言うとき、人事は何をすればよいですか?
言い返す言葉が出ないなら、人事も同じことを感じている合図です。面談のあとに会社が変えたことを1つでも社員に返せれば、産業医面談は話して終わりの時間ではなくなります。
産業医の話し方が高圧的に感じるときは、どうすればよいですか?
話し方そのものには触れず、「上司と本人に説明したいので」と会社の困りごとから聞くと、角が立ちにくくなります。それでも変わらない産業医なら、見直してよい場面です。場面ごとの一言は、お悩み「産業医が高圧的で意見を聞き返せない」に載せています。
産業医に相談しにくいのは、よくあることですか?
他の産業医からの切り替えでご相談いただいた企業から、実際に伺った困りごとです。訪問の時間、話し方、ふるまい、次の一手のどれかで、産業医に言い出せないまま続いていたというお話でした。産業医に相談しにくいと感じているのは、貴社だけではありません。
訪問日以外に産業医へ連絡するのは、迷惑ではありませんか?
方法と時間帯が決まっていれば、迷惑ではありません。休職も復職も、産業医の訪問日を待ってくれません。決まっていないなら、次の訪問日の最初の5分で産業医と決めてください。
産業医を替えたら、面談中の社員はどうなりますか?
面談を続けている社員の引き継ぎから考えます。今の契約の解約時期に合わせて、新しい産業医に何を引き継ぐかを決め、社員には「産業医が替わること」と「どこまで引き継がれるか」を先に伝えてください。
人事が1人だけの会社でも、相談してよいですか?
相談してください。人事が1人の会社ほど、産業医に聞けなかった一言を、誰にも相談できずに抱えています。気になっていることを、そのままお聞かせください。

言えずにいた一言は、相談しにくい産業医にも次の訪問日に持っていく

時間を守ってほしい。理由を聞かせてほしい。会社の場に合わせてほしい。次の一手がほしい。言えずにいた4つは、産業医の腕ではなく、仕事の進め方への頼みでした。

次の訪問日に産業医へ言う一言を決めて、それでも変わらないときは、替えると決める前に、気になっていることをそのままお聞かせください。

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杉山 大介

株式会社サンダーメディコ 代表│東京都の嘱託産業医

現役の嘱託産業医として複数社を担当。「来る産業医」ではなく「動く産業医」をモットーに面談・衛生委員会・職場改善まで実務に入る。

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